日本皮膚科学会が作成したガイドラインを読んでみましたが、ちと長いので、自分なりのポイントをまとめておきます。
男性型脱毛症とは
◎現象
毛周期を繰り返す過程で成長期が短くなり,休止期にとどまる毛包が多くなることを病態の基盤とし,臨床的には前頭部や頭頂部の頭髪が,軟毛化して細く短くなり,最終的には頭髪が皮表に現れなくなる現象である。この病態は男女を問わず同一で有り,休止期脱毛と異なり,パターン化した脱毛が特徴である
◎日本人男性の場合
20 歳代後半から 30 歳代にかけて著明となり,徐々に進行して 40 歳代以後に完成される.25 年前の本邦における男性型脱毛症の統計から,日本人男性の発症頻度は全年齢平均で約 30%と報告されている
◎発症頻度
20 代で約 10%,30 代で 20%,40 代で 30%,50代以降で 40 数%と年齢とともに高くなる
◎病態
一般的に男性ホルモンは骨・筋肉の発達を促し,髭や胸毛などの毛を濃くする方向に働く.しかし,前頭部や頭頂部などの男性ホルモン感受性毛包においては逆に軟毛化現象を引き起こす.
男性ホルモン感受性毛包の毛乳頭細胞には男性ホルモン受容体が存在するが,髭や前頭部,頭頂部の毛乳頭細胞に運ばれたテストステロンは 「II 型 5α―還元酵素」の働きにより,さらに活性が高いジヒドロテストステロン(DHT)に変換されて受容体に結合する.
DHTの結合した男性ホルモン受容体は、髭では細胞成長因子などを誘導し成長期が延長する.
逆に前頭部や頭頂部の男性ホルモン感受性毛包においては,DHTの結合した男性ホルモン受容体はTGF-β や DKK1 などを誘導し毛母細胞の増殖が抑制され成長期が短縮することが報告されている.
◎診断
問診により家族歴,脱毛の経過などを聴き,視診により額の生え際が後退し前頭部と頭頂部の毛髪が細く短くなっていることを確認する.
男性型脱毛症の診断は比較的容易であるが,ゆっくりと頭髪が抜け,頭部全体が疎になる円形脱毛症の亜型,女性型脱毛症においては,慢性休止期脱毛,膠原病や慢性甲状腺炎などの全身性疾患に伴う脱毛,貧血,急激なダイエット,その他の消耗性疾患などに伴う脱毛,治療としてのホルモン補充療法や薬剤による脱毛などを除外することが大切である.
男性型脱毛症に対する推奨度が高い治療方法
A(強く勧める)
フィナステリドの内服
デュタステリドの内服
ミノキシジルの外用
B(勧める)
植毛術
LEDおよび低出力レーザー照射
アデノシンの外用
C1(行ってもよい)
カルプロニウム塩化物の外用
t-フラバノンの外用
サイトプリンおよびペンタデカンの外用
ケイコナゾールの外用
C2(行わないほうがよい)
ビマトプロストおよびラタノプロストの外用
成長因子導入および細胞移植療法
D(行うべきではない)
ミノキシジルの内服!!!!
※推奨度の分類
A.行うよう強く勧める
(少なくとも1つの有効性を示すレベルIもしくは良質のレベル II のエビデンスがあること)
B.行うよう勧める
(少なくとも 1 つ以上の有効性を示す質の劣るレベル II か良質のレベル III,あるいは非常に良質の IV のエビデンスがあること)
C1.行ってもよい
(質の劣る III~IV,良質な複数の V,あるいは委員会が認める VI のエビデンスがある)
C2.行わないほうがよい
(有効のエビデンスがない,あるいは無効であるエビデンスがある)
D.行うべきではない
(無効あるいは有害であることを示す良質のエビデンスがある)
フィナステリドの内服
・テストステロンをより強力なジヒドロテストステロン(DHT)に変換する II 型5-α 還元酵素に対する阻害剤
・フィナステリド(1 mg/日,0.2 mg/日)を用いた,414 名の「日本人」男性被験者を対象とした観察期間 48 週間のランダム化比較試験において,頭頂部の写真撮影による効果判定では,1 mg/日では 58%が軽度改善以上の効果があり,0.2 mg/日では 54%が軽度改善以上の効果が26).引き続き 1 mg/日投与を継続した非ランダム化比較試験では,2 年間および 3 年間の内服継続により,軽度改善以上の効果が各々 68%および 78%の症例で得られ,その率は増加傾向を示した.
・別の 801 名の「日本人」男性被験者を対象とした観察研究において,フィナステリド(1 mg/日)5 年間の内服継続により写真評価において効果が 99.4%の症例で得られた28).40 歳未満の症例,重症度の低い症例でより高い効果を示した.
・フィナステリド(1 mg/日)を用いた,355名の男性被験者を対象とした観察期間 48 週間のランダム化比較試験において32),前立腺癌のマーカーである血清 PSA 濃度が約 50%低下することが示された.
そのため,フィナステリドを投与中の男性型脱毛症に対し,前立腺癌診断の目的で血清PSA濃度を測定する場合は,2 倍した値を目安として評価すべきである.
デュタステリドの内服
・デュタステリドは,テストステロンをより強力なジヒドロテストステロン(DHT)に変換する 5-α還元酵素の I 型,II 型両者に対する阻害剤
・デュタステリド 0.5 mg/日とフィナステリド1 mg/日を用いた,917名の男性被験者を対象とした観察期間 6 カ月のランダム化比較試験において,全毛髪数と毛直径の増加についてはデュタステリドの方が優れた効果を示したが,直径 60 μm 以上の硬毛数では両者間に有意な差がなかった.
さらに,頭頂部および前頭部の写真評価のため,著明悪化-3 から著明改善+3の 7 ポイントスコアリングが行われ,治験担当者のスコアリングでは両群間に有意な差はなかったが,3 名のエキスパートパネルによる評価ではデュタステリドの方が優れた効果を示した.しかし,その点数差は頭頂部では 0.14,前頭部では 0.24 とわずかなものであった.したがって,両者の効果差については今後さらなる検討を要する.
・副作用に関して,前述の国際臨床試験において37),有害事象頻度はリビドー減少 3.3%,インポテンツ 5.4%,射精障害 3.3%,韓国の 712 例,平均観察期間 204.7 日の市販後調査39)では,リビドー減少 1.3%,インポテンツ 1%,射精障害 0.1%であった.
他方,前述の国内非ランダム化試験(120 例,52 週間)38)では,リビドー減少 8.3%,インポテンツ 11.7%,射精障害 5.0%と比較的高率であった38).
以上より,投与にあたっては添付文書の記載をよく読んだ上で,性機能障害を含めた副作用についても十分な説明と同意が必要である.
また,デュタステリドを投与中の男性型脱毛症患者において,前立腺癌診断の目的で血清PSA 濃度を測定する場合は,2 倍した値を目安として評価すべきである
ミノキシジル外用
推奨度:A
推奨文:ミノキシジル外用を行うよう強く勧める
(男性型脱毛症:5%ミノキシジル,女性型脱毛症:1%
ミノキシジル).
解説:
・ミノキシジルの有用性に関して,男性型脱毛症に対する14件のランダム化比較試験41)~54)と1件のシステマティック・レビュー55),女性型脱毛症に対する10 件のランダム化比較試験56)~65)と1件のシステマティック・レビューが実施されている66).
・まず男性型脱毛症に関しては,2%ミノキシジル液を用いた 5 件のランダム化比較試験41)~45)を解析した,924名の男性被験者を対象とした観察期間 24 週のシステマティック・レビューにおいて55),2%ミノキシジル群ではプラセボ群に比べ,脱毛部の総毛髪数がベースラ
インより平均で 20.90 本(95%信頼区間 9.07~32.74)と有意に増加した.
・2%および 5%ミノキシジル液を比較したランダム化比較試験は 2 報あり49)50),そのうち症例数が多い 393名の男性被験者を対象とした,観察期間 48 週までのランダム化比較試験において,脱毛部 1 cm2 内の非軟毛(nonvellus hair)数のベースラインからの増加は,プラセボ群が平均 3.9 本,2%ミノキシジル群が平均 12.7本,5%ミノキシジル群が平均 18.6 本で,5%ミノキシジル群で他の 2 群に比し有意に(対プラセボ p<0.001,対 2% p=0.025)増加した50).
・また,国外ではフォーム(泡)型のミノキシジルも使用されている51)~53).フォーム(泡)型 5%ミノキシジルを用いた,症例数が最も多い 352 名の男性被験者を対象とした観察期間 16 週までのランダム化比較試験において,脱毛部 1 cm2 内の毛髪数のベースラインからの増加は,プラセボ群が平均 4.7 本だったのに対し,フォーム(泡)型 5%ミノキシジルは平均 20.9 本と,有意(p<0.0001)に増加した51).
・国内では,1%,および 5%ミノキシジル液を用いた,300 名の男性被験者を対象とした観察期間 24 週までのランダム化比較試験が行われ54),脱毛部 1 cm2 内の非軟毛数のベースラインからの増加は,1%ミノキシジル群が平均 21.2 本,5%ミノキシジル群が平均 26.4本と,5%ミノキシジル使用群で有意(p=0.02)に増加した.
・ミノキシジルの有害事象として,男女を通して瘙痒,紅斑,落屑,毛包炎,接触皮膚炎,顔面の多毛などが報告されている.
2%および 5%ミノキシジル液を比較した,393 名の男性被験者を対象とした,観察期間 48週までのランダム化比較試験では50),瘙痒,接触皮膚炎といった皮膚症状の出現率は 5%ミノキシジル群で6%と,2%ミノキシジル群(2%),プラセボ群(3%)より高かった.
また,2%ミノキシジル(1 日 2 回)および 5%ミノキシジル(1 日 2 回)を用いた,381 名の女性被験者を対象とした観察期間 48 週までのランダム化比較試験において,皮膚症状の出現率は 5%ミノキシジル群で14%と,2%ミノキシジル群(6%),プラセボ群(4%)より高かった62).
一方,2%ミノキシジル(1 日 2 回)および 5%ミノキシジル(1 日 1 回)を用いた,113 名の女性被験者を対象とした観察期間 24 週までのランダム化比較試験では,皮膚症状の出現率は 5%ミノキシジル群の方が 2%ミノキシジル群より有意に(p=0.046)低かった65).そのため,両者の有害事象については,まだ見解が一致していない.
・ミノキシジル外用による有害事象例で成分パッチテストまで行った例は非常に少ない.上述の 393 名の男性被験者を対象としたランダム化比較試験において,5%ミノキシジルで接触皮膚炎症状を呈した 10 名のうち,パッチテストまで施行したのは 3 名のみであり,うち 2 名は溶媒であるプロピレングリコールにも陽性を示した50).このように,ミノキシジル外用による有害事象は必ずしもミノキシジルだけの作用によるとは言えない.
・一方で,男女ともにミノキシジル外用初期に休止期脱毛がみられることがあり,これが外用中止につながる恐れがあるため,患者への説明が必要である.
・以上のように,ミノキシジル外用の発毛効果に関して,高い水準の根拠があるので,男性型脱毛症に 5%ミノキシジル,また女性型脱毛症に 1%ミノキシジルを外用するよう強く勧める.
ミノキシジルの内服
推奨度:D
推薦文:ミノキシジルの内服を行うべきではない.
解説:
・ミノキシジル内服の有用性に関して臨床試験は実施されていない.
・ミノキシジルは降圧剤として開発されたが本邦では認可されていない.また,男性型脱毛症に対する治療薬としても認可されている国はない.それにもかかわらず,全身の多毛症を起こす副作用があることを根拠
に,医師が安易に処方したり,一般人が個人輸入で入手し服用することがあるので,医薬品医療機器等法の観点から問題視されている.
・多毛症以外のミノキシジル内服薬の副作用の報告は少なく,内服用製剤の添付文書中の市販後調査欄に,胸痛,心拍数増加,動悸,息切れ,呼吸困難,うっ血性心不全,むくみや体重増加などの重大な心血管系障害が生じるとの記載がある.
・以上のように,ミノキシジルの内服療法は,利益と危険性が十分に検証されていないため,男性型脱毛症・女性型脱毛症ともに行わないよう強く勧められる